白い夏の墓標

久しぶりに読んだ本の感想
 
『白い夏の墓標』 著者 箒木蓬生(ははきぎほうせい) 新潮文庫

珍しいペンネームは源氏物語の 箒木の帖、蓬生帖からとか、源氏がお好きなのか?

箒木蓬生さんの小説を読むのは2冊目、以前、『みたびの海峡』を読んで炭鉱町に育ち、
朝鮮の人もずいぶん炭鉱で働いていた時代を思い感激したが、
その後読んでいなかった。最近とにかく本を読まなくなった。
この本も友人が感激したと言って、わざわざ届けてくれた。
本当に面白くて一気に読んだ。久しぶり。

1950年代から1980年に至る話、そのころの微生物学からは進歩してはいるが
まったく、古さを感じさせない。

科学ミステリーは一番好きなジャンル、アメリカの小説家マイケル・クライトンのようにも
思うが・・・

内容は、舞台がパリ、仙台、そしてピレネーへ

この小説が書かれた当時の日本の医学部研究室の中で下働きに近い若い有能な微生物
学研究者(黒田)の立場からすれば、彼が発見した「仙台ビールス」が注目され、乞われて
好きな研究と、高収入を約束された、アメリカの軍事微生物学研究所へ。
とても理解できる、しかし、アメリカでは秘密裏に表立った研究ではなく、細菌兵器のための
研究をさせられる。第二次世界大戦時、日本でも存在した、731部隊(石井部隊)のような。
原爆より安価で、大量培養さえすれば、大量殺戮に。
日本には黒田は1年後交通事故で死んだと、存在すら抹殺される。

その後、数十年を経て、かって仙台の大学の研究室で黒田のたったひとりの友、佐伯はすでに
立派な微生物学者で、黒田の存在すら忘れかけていたが、パリの学会発表後、一人の老アメ
リカ人から、黒田の死は自殺であったと聞かされる。
そして、自分に代わって黒田の眠るピレネーの墓参りをし、墓を長年守り続けているジゼルと
いう婦人に渡してほしいものを頼まれる。

ここから、佐伯と黒田の大学での思い出、黒田の人を寄せ付けないが、真摯なほどビールス
と向き合っていたこと、その後音信不通、そして、交通事故死

昔を思い出しながら、ピレネーへ向かうバスや電車で見る風景描写もとてもよく書かれている。
ジゼルに会って、ジゼルが黒田の恋人で、二人の間には子供も、黒田は全うでない研究から
逃れるため、ジゼルとともに逃亡したが、殺された。墓はあるが死体はないということであった。
ジゼルはその後東洋系の人と結婚、二人の息子もいた。
そして、黒田が残した日本語で書かれた研究ノートを形見にと渡される。

そのノートには、黒田がアメリカで行っていた研究、細菌兵器のものだけではなく、とても全うな
研究も、黒田は今後佐伯が読んで彼の手がけたことを、ビールス学のために役立てて欲しい
との想いが読み取れた。また黒田の出生からの過去を詳しく書いてあり、人を寄せ付けない、
人との交わりよりも細菌とだけ向き合う孤独な、優れた研究者であったことも、佐伯は
理解した。

パリに戻り、黒田とジゼルとの娘に会い、黒田のよいところを受け継いだ素敵な娘と感じ、
黒田が会わせかったことも理解できる。昔の自分とは違うとのおもいであろう。
ジゼルの今の東洋系の夫はたぶん黒田は生き延びて、昔の彼とは全く違った人生を生きて
いるような終わり方をしている。
佐伯に、墓参りを頼んだアメリカの老紳士は、かっての黒田のいた微生物学研究所の所長で、
黒田のように彼自身の息子も全うでない研究から逃れるため自殺、彼は黒田を殺そうとしたが、
一方では生き延びてほしいと、切望、退役後後悔し佐伯に託したとのこと。

結末は、爽やかで、よい本であった。
いまなお、このような秘密裏の研究は世界のいたるところで行われているはず、恐ろしいが、
科学者の良心を信じたい。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
by gonta2kohana1-nak | 2013-06-01 22:26 | | Comments(0)

いつのまにやら、黄昏時にさしかかた さとおばさん(さとばあちゃんかも?)、いつもエネルギーをもらうワンコたちとの日常


by gonta2kohana1-nak
プロフィールを見る
画像一覧
通知を受け取る